ココロが軽くなるメンタルケア:ひとつ気になると他のことに集中できない

一般社団法人認知行動療法研修開発センター 理事長 大野 裕

 入社2年目の企画営業職です。会社では同時進行でいくつもの案件に携わるため、事務処理などは効率的に、とにかく数をこなす必要があります。順調なときはいいのですが、何かひとつ問題が起こると、そのことばかり気になってしまい、他の作業に手がつかなくなることが悩みです。
 例えば解決までには時間が必要で、いくら私が気にしても仕方がないような問題であっても、『本当に私に責任はないのか』『こじれて仕事がなくなったら』と不安な考えが次々浮かんできます。順調なはずの案件にも集中できなくなり、ケアレスミスが増えて仕事全体に悪影響が及んでしまうのです。このように余計なことに気をとられず、目の前のことに集中できるようになるには、どうしたらよいでしょうか。

ぐるぐる思考は負のスパイラルに

 あなたはとてもきちんとしている人なのでしょう。だからいろいろな案件を頼まれるのだと思います。それはそれで良いことなのですが、案件が増えてくると対処しきれなくなって、いろいろと心配なことがぐるぐると頭に浮かんできます。

 こうしたぐるぐる思考を、専門的には「反すう」と呼びます。ぐるぐる思考のときは、いくら考えても新しい気づきは生まれません。それどころか、あなたのように、集中力が落ちてケアレスミスが増えるなど、さらに問題が大きくなってしまいます。

ラベリングして頭の中を整理する

こうしたことを避けるために大切なのは、まず、今考えていることが反すうかどうかを判断することです。そのためには、次に挙げる「反すう」の3要件が役に立ちます。それは、①問題解決の方向に考えが進んでいるかどうか、②それまでわからなかったことに新しく気づけたか、③自分を責めることが少なくなって気持ちが軽くなったか、の3つです。

 これをどれも満たしていないときには、「これは反すうだ」と自分の心の中でつぶやいてください。このようにラベル付けをすることができれば、次のステップに移りやすくなります。次のステップは、「反すう」に代わる行動をしてみることです。それには、伸びをしたり机の上を片づけたりするなどで体を動かすことと、過去の楽しい体験を細かく思い出すことの、2つの方法が役に立ちます。

 そのようにして「反すう」を止めることができれば、次に、具体的な問題について考えるようにします。もし何かに失敗していたとしても、失敗した過去を変えることはできません。しかし、失敗は次に生かすことができます。最初は難しいかもしれませんが、あきらめないで続けていくうちに、自然にできるようになります。


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